この記事でわかること
・「目標を持て」というプレッシャーの正体
・「目標至上主義」が、なぜ昭和の遺産と言えるのか
・自己肯定感を先に整えることの大切さ
・すべての世代が、山登りの呪縛から自由になる方法
「あなたの5年後のキャリアビジョンは?」「今年度の目標は、もう一歩高く設定しよう」。就職活動や会社の面談で、当たり前のように投げかけられるこれらの言葉。聞かれるたびに、胸がキュッと締め付けられるような焦りや、「明確な目標がない自分はダメ人間なのではないか」という自己否定感を抱いてしまう人は少なくありません。
特に、変化の激しい現代を生きる私たちにとって、何年も先の未来を理路整然と描き、そこから逆算して努力を続けることは、想像以上に困難なことです。なぜ、私たちはこれほど「目標」や「ビジョン」という言葉に息苦しさを感じてしまうのでしょうか。
SelfLabは、その息苦しさは、あなたの意志が弱いからではなく、育ってきた時代の価値観に理由があるかもしれない、という視点を大切にしています。焦らなくても大丈夫です。この記事では、「目標至上主義」という古い価値観の正体を紐解きながら、これからの時代を自分らしく歩むためのヒントをお伝えします。
「目標至上主義」という、昭和の古い価値観
学校やビジネスシーンでは今なお、「なんらかの目標をもって努力せよ」という風潮が根強く残っています。樋口邦史編著『Z世代のキャリアデザイン』(水曜社)では、このように述べられています。先端的なIT企業であっても、社員に目標を課すときは「もう少し上目に設定をしてください」というフィードバックが日常的に行われている。社員本人の目標は、上司や人事から「手が届くか届かないか」という高めの目標に修正するよう指導されてしまうこともある。これは、「山登り型の目標設定が正しいのだ」という価値観が存在しているからだと考えられる。
日本が右肩上がりに成長していた昭和の時代、この「目標至上主義」は組織を動かす強力なエンジンでした。全員が同じ山頂(目標)を目指し、そこから逆算して脇目も振らずに登る「山登り型」のキャリアが、最も効率的な成功法則だったからです。会社に入れば、長く勤め、役職を上げ、決められた道筋の中でキャリアを描きやすい時代でした。それ自体は、悪いことではなく、あの時代なりに機能していた仕組みだったのです。
しかし、現代は正解がひとつではない時代です。働き方も価値観も多様になり、一本道のキャリアモデルはすでに崩れつつあります。それにもかかわらず、社会のシステムや評価基準だけが「目標至上主義」という古い価値観のまま止まっていることに、今を生きる私たちが抱える息苦しさの原因があります。キャリア形成は、企業の売上目標とは違います。本心から「達成したい」と思えない高すぎる目標に届かないからといって、「自分はダメな人間だ」と自己否定を繰り返す必要は、まったくありません。
何よりもまず「自己肯定感」をファーストに
目標至上主義の罪深さは、「目標を達成していない現在の自分」を引き算で否定させてしまう点にあります。この古い価値観に囚われると、自分を「ダメな人間」だと思い込み、弱みにばかり目が向くようになり、本来の強みや魅力を見失ってしまうことがあります。これでは、新しい一歩を踏み出すことが難しくなります。
だからこそ大切なのは、キャリアを描くための「順番」です。心が落ち込んでいるときに「前向きな未来を描きましょう」と言われても、良いビジョンが浮かぶはずがありません。まずは、自分の良い面だけでなく、未熟さや弱さも含めて「これでいい」「自分は大丈夫」と丸ごと受け入れること。その土台となる自己肯定感が育まれて初めて、人は自然と「未来を描く力」を獲得できるようになります。「目標を立てる」ことよりも先に、「心を整える」こと。この順番を間違えないことが大切です。
今日のDrop
「これは本当に私の意志の弱さだろうか、それとも時代の物差しが古いだけだろうか」。そんな問いを立ててみたい気分ですか。それとも、今日はそのままにしておきたい気分ですか。どちらでも大丈夫です。
令和の生存戦略「ピクニック型」でいこう
古い山を登ることをやめた私たちは、これからどうやってキャリアを歩んでいけばいいのでしょうか。山登り型が「あらかじめ決めた山頂へアタックする」のに対し、もうひとつのアプローチとして「ピクニック型」があります。大きな目標を立てることなく、目の前の小さな目標を次々にクリアしていく歩き方です。
『Z世代のキャリアデザイン』では、ある酪農業を営む夫婦の妻の事例が紹介されています。彼女は最初から大きな夢を持っていたわけではなく、周囲の「お肉が買いたい」という声に応えて小さな小売スペースを作り、次に「ここで食事ができたら素敵」という声からバーベキュー広場が生まれていきました。目の前の小さな声に丁寧に応えていくうちに、思いもよらなかった未来が形作られていったのです。気楽な気持ちとはいえ、立ち止まることなく歩みは続いているため、確実に未来に向かって進んでいく、と本書は語っています。
今、達成したい大きな目標がなくても構いません。目の前の景色を楽しみながら進むこと自体が、立派なキャリアデザインです。この「ピクニック型」の歩み方については、より詳しく別の記事でもご紹介していますので、興味がある方はぜひ読んでみてください。
すべての世代が「山登りの呪縛」から自由になるために
おもしろいことに、「目標至上主義からの脱却」というメッセージは、若い世代だけでなく、すべての世代の救いとなっています。
働く女性たちの中には、ライフイベントや環境の変化によって、一本道の「登山ルート」から外れがちな方も少なくありません。そんな方々が、ピクニック型という捉え方を知ることで、「目の前のことに精一杯だった自分」を肯定し、再解釈する勇気を得ることがあります。
また、定年という大きな転機を迎えるシニア世代も、これまでの仕事人生を振り返り、「あの体験があったから今の自分がある」と意味づけを変えることで、これからの人生を前向きに歩む力を取り戻すことがあります。
世代を問わず、私たちが健やかに生きるためのヒントは、昭和の遺産である「目標の強制」を手放し、自分だけの自己肯定感を中心軸に据えることにあるのかもしれません。
書くことが、心を整える第一歩になる
「目標を立てる」より先に「心を整える」ことが大切だとお伝えしましたが、では、心を整えるにはどうすればいいのでしょうか。特別な方法は必要ありません。SelfLabは、「書くだけで、心が軽くなる」という考え方を大切にしています。
今日感じたこと。少し嬉しかったこと。うまくいかなかったこと。そうした一行を書き残していくことは、自分の良い面も、未熟な面も、丸ごと見つめる練習になります。目標を無理に探すより先に、今の自分に「大丈夫」と声をかけられるようになること。その積み重ねが、やがて自分らしい歩みを支える土台になっていきます。
以前、相談に来てくれたある方は、長年「目標を持てない自分は、社会人として失格だ」と思い込んでいました。就職活動や面談のたびに、明確なビジョンを答えられない自分を責め続けていたそうです。
けれど、その「目標を持て」という価値観自体が、実は昭和の時代に強く根づいたものだと知り、「自分の意志が弱かったわけじゃなかったんだ」と、肩の荷が下りたような気がします、と話してくれました。
まとめ|マイペースに、足元の景色を楽しもう
もし、あなたが今「未来が見えない」「目標が描けない」と悩んでいるなら、それはあなたの能力のせいではなく、社会に残る「目標至上主義」のプレッシャーに、少し疲れてしまっているだけかもしれません。
無理に高い山を目指す必要はありません。まずは自分に「大丈夫」と声をかけ、今の自分の中にある強みや資質をそっと眺めてみる。そして、目の前にある「ちょっとやってみようかな」と思える小さな一歩を、気楽に歩き出してみませんか。
SelfLabは、目標を持つことだけを大切にするのではなく、今のあなたに合った歩き方を選ぶことを大切にしています。その歩みの先に、あなたにしか描けない、明るく晴れやかな未来がきっと待っています。焦らなくても大丈夫です。
よくある質問
会社では目標設定を求められます。どう向き合えばいいですか?
仕事上の目標設定と、自分の人生の歩み方は、分けて考えて構いません。会社の求める形式に応えつつ、心の中では「今の自分に合った歩き方でいい」と思っておくだけでも、感じ方が変わることがあります。
周りは目標を持って頑張っています。焦ってしまいます。
焦る気持ちは自然なものです。ただ、山登り型もピクニック型も、どちらが優れているということはありません。周りと比べるより、今の自分にとって無理のない歩き方を選んでみてください。
昭和の価値観を否定しているように感じます。
否定しているわけではありません。その時代には、その時代なりの理由があり、多くの人を支えた価値観でもあります。ただ、時代が変わった今、同じ物差しをそのまま自分に当てはめなくてもいい、ということをお伝えしたいだけです。