自分の名前を、選んだ人はいない|Adam Alterが語る、名前・色・環境の影響

思考を整える

自分の名前を、自分で選んだ人はほとんどいません。

生まれたときに誰かにつけてもらい、それから何十年も、その名前で呼ばれて生きていきます。

だからといって、名前が人生を決めるわけではありません。

けれど、もしその名前が、自分でも気づかないところで、ほんの少しだけ自分の選択や、周囲からの見られ方に影響しているとしたら。

そんな少し不思議な話をしているのが、NYU Stern School of Business教授のAdam Alter(アダム・オルター)です。

自分では気づきにくい「環境の力」を研究する

今回紹介するのは、Steven Bartlettがホストを務めるポッドキャスト「The Diary Of A CEO」に、Adam Alterが出演した回です。

Alterはマーケティングや社会心理学を研究するNYU Stern School of Businessの教授で、『Drunk Tank Pink』『Irresistible』『Anatomy of a Breakthrough』などの著書があります。

前回のJournalでは、同じ対談から「好奇心」についての話を紹介しました。

けれど、この対談にはもうひとつ、とても興味深いテーマがあります。

それは、私たちの行動が、自分で思っているほど「自分の意思だけ」で決まっているわけではないかもしれない、という話です。

名前。

色。

気温。

自然。

普段なら、それほど意識することもないものです。

ところがAlterが紹介する研究をたどっていくと、そうした何気ないものと人間の行動とのあいだに、意外な関係が見えてきます。

好きなアルファベットを、3つ選んでください

対談のなかでAlterは、Steven Bartlettに簡単な質問をします。

アルファベットのなかから、好きな文字を3つ選んでほしい。

それだけです。

けれど、多くの人が選ぶ文字のなかには、ある特徴があるといいます。

自分の名前に含まれている文字、とりわけ自分の名前の頭文字を好む傾向があるのです。

“it’s a part of our ego that’s contained in the letters of our name”

「自分の名前の文字には、私たちの自己の一部が含まれているのです」

毎日のように呼ばれ、書き、目にしてきた名前。

その文字は、単なる記号ではなく、長い時間をかけて「自分」と結びついていくのかもしれません。

そしてAlterが紹介する研究は、さらに意外なところへ進みます。

ハリケーン・カトリーナと「K」の不思議な関係

2005年、アメリカを大型ハリケーン「Katrina(カトリーナ)」が襲いました。

災害後、多くの人が被災者への寄付を行いました。

その寄付について調べると、Kで始まる名前を持つ人たちが、それ以外の人たちより多く寄付していたという傾向が見つかったとAlterは紹介します。

Katrinaの「K」と、自分の名前の「K」。

もちろん、「Kという名前だから寄付した」と本人が考えていたわけではありません。

Alterによれば、別のハリケーンでも、そのハリケーンの名前と同じ頭文字を持つ人の寄付が増える傾向が確認されたといいます。

自分とどこか関係があるように感じるものに、ほんの少し注意や関心が向きやすくなる。

もしそうだとすれば、私たちが「自分で決めた」と思っている行動の背景にも、自覚していない小さなきっかけが混ざっているのかもしれません。

名前は、自分だけに影響するわけではない

名前についての話は、ここから少し重いテーマに移ります。

Alterが紹介するのは、名前の「発音しやすさ」と、弁護士のキャリアについての研究です。

発音しやすい名前を持つ人と、発音しにくい名前を持つ人。

キャリアの初期には大きな違いが見えなくても、10年、20年と時間が経つにつれて、昇進の速度に差が現れたといいます。

Alterの説明では、人は発音しにくい名前を前にすると、わずかな不安やためらいを感じることがあります。

そのため、複数の候補者がいるような場面で、より処理しやすい、つまり発音しやすい名前の人を無意識に選んでしまう可能性があるというのです。

ここで重要なのは、Alterがこの結果をそのまま「名前の発音しやすさの効果」として片づけていないことです。

「それは、人種的な偏見ではないのか」

名前について研究する以上、避けて通れない問題があります。

人種や民族的背景です。

Alter自身も、白人に多いと認識される名前と、アフリカ系に多いと認識される名前では、採用の場面で大きな差が生じることを示した研究があると認めています。

つまり、発音しにくい名前の人が不利になっているように見えても、それが本当に「発音しにくいから」なのか、それとも人種的な偏見によるものなのかを、そのままでは区別できません。

そこで研究では、対象をその国で生まれた白人弁護士に絞り、人種的背景による影響をできるだけ切り離したうえで比較したとAlterは説明します。

それでも、発音しやすい名前を持つ人のほうが、キャリアのなかでより早く昇進する傾向が確認されたといいます。

もちろん、名前だけで誰かのキャリアが決まる、という話ではありません。

むしろ興味深いのは、人を評価するときでさえ、私たちは自分が意識している理由だけで判断しているとは限らない、というところです。

刑務所の壁が、ピンク色になった理由

Alterの話は、名前から「色」へ移っていきます。

彼の著書のタイトルにもなっている「Drunk Tank Pink」。

これは、刑務所などで使われたことで知られる、あるピンク色をめぐる研究に由来します。

この色に囲まれることで、人の興奮や攻撃性が一時的に落ち着く可能性があるという研究があり、実際に壁をピンク色にする施設も現れました。

ところが、話はそこで終わりません。

Alterが紹介する知見では、その効果はずっと続くわけではなく、長時間その環境に置かれると、むしろ反発するような効果が現れることもあるといいます。

「この色には、こういう効果がある」

そんな単純な公式では説明できないところが、人間の面白いところなのかもしれません。

赤い服と、ヒッチハイク

色について、もうひとつ印象的な話があります。

赤です。

Alterは、赤色と人の「近づく」という行動との関係を調べた研究を紹介します。

たとえば、マッチングサービスなどで同じ人物を見せた場合でも、赤色が使われている条件では魅力の評価に違いが生じることがある。

さらに、道路脇でヒッチハイクをする実験でも、服の色によって車が止まる割合に違いが見られた研究があるといいます。

これも、「赤い服を着ればうまくいく」という話ではありません。

興味深いのは、本人が「赤だから近づこう」と考えているわけではないのに、色という小さな環境要因と行動のあいだに関係が現れることです。

私たちは、場所からも影響を受けている

そして話は、さらに私たちを取り囲む環境そのものへ広がります。

川のせせらぎ。

木々のあいだから差し込む光。

自然のなかで過ごすこと。

Alterは、こうした自然環境が人の心理的な回復と関係する研究についても触れています。

一方で、環境はいつも穏やかな方向に働くわけではありません。

暑さと攻撃性の関係も、そのひとつです。

Alterは野球を例に、気温が高くなるにつれて、投手が打者にボールを当てるような攻撃的な行動が増える傾向について説明します。

暑いから腹を立てよう、と決めているわけではありません。

それでも、気温という自分の外側にある条件が、人間の行動と無関係ではないことを研究は示しています。

名前から始まった話は、色、自然、そして気温にまで広がっていきます。

どれも普段の生活では、背景として通り過ぎてしまいそうなものばかりです。

けれど、その「背景」もまた、私たちの選択や感情と静かに関わっているのかもしれません。

ここからは、SelfLabの視点です

気づく前から、もう反応している

Alterが紹介する話を読んでいると、あることに気づきます。

色を見て、空間を感じ、暑さや寒さを感じる。

私たちは、それらを頭で意味づけするより前に、身体や感覚の側で、もう反応しているのかもしれません。

だとすれば、自分で選んだと思っていることの中にも、周囲から受けた影響が含まれているのかもしれません。

それでも、自分がいる場所や、目にしているもの、感じている温度と、少し向き合ってみる余地はあります。

気づけば、そこから初めて見えてくることもあるのかもしれません。

今日の問い

最近の自分の気分や選択を、ひとつ思い出してみてください。

それは、本当に自分の内側だけから生まれたものでしょうか。

そのときいた場所。
目にしていたもの。
一緒にいた人。
暑さや寒さ。
誰かからかけられた言葉。

いつもなら「背景」として見過ごしているものが、自分に少し影響していた可能性はないでしょうか。

答えを見つける必要はありません。

ただ、「自分が気づいていないものからも、自分は影響を受けているかもしれない」と考えてみる。

そうすると、いつもの一日が少し違って見えてくるかもしれません。

出典・原典

今回紹介した話は、Adam AlterとSteven Bartlettの対談の一部です。

名前の文字から始まり、色や環境など、対談では「自分では気づきにくいものが、人の行動にどう関わっているのか」が、さまざまな研究や具体例とともに語られています。

文章にすると少し不思議に見える研究もありますが、実際の対談ではSteven Bartlettが素朴な疑問を投げかけ、それにAlterが研究の背景や限界も含めて説明していきます。

興味を持った方は、ぜひそのやり取りごと聞いてみてください。

番組:The Diary Of A CEO with Steven Bartlett
出演:Adam Alter
聞き手:Steven Bartlett
配信日:2023年7月3日
原典:YouTube「The Diary Of A CEO」
URL:https://www.youtube.com/watch?v=cI2rMEd6GW4