「運がいい」と答えた人は、その広告に気づいた|Vanessa Van Edwardsの対談から

「運がいい」と答えた人が広告に気づく実験を表したアイキャッチ 思考を整える

「あなたは、自分を運がいいと思いますか?」

そんな質問をされたら、少し考えてしまうかもしれません。

最近いいことがあったか。仕事がうまくいっているか。思いがけない出来事に恵まれたか。

でも、Vanessa Van Edwardsがこの質問をしたのは、運勢について話すためではありませんでした。

彼女が話していたのは、自分について、自分がどんな物語を持っているかということでした。

そして、その話の途中で紹介された、ある新聞を使った実験が印象に残りました。

「運がいいと感じますか?」という質問

Vanessa Van Edwardsは、人のコミュニケーションや行動について研究・発信するScience of Peopleの創業者です。『Captivate』『Cues』などの著書でも知られています。

彼女がSteven Bartlettの「The Diary Of A CEO」に出演した回では、人との関わり方やコミュニケーションだけでなく、「自分自身をどう捉えているか」という話にも及びます。

対談のなかでVanessaは、人との親密さには3つの段階があると説明します。

相手の一般的な情報だけを知っている段階。相手の悩みや目標を知っている段階。そして、もっとも深い段階として、相手が「自分自身についてどんな物語を語っているか」を知っている段階。

この、もっとも深い段階を、Vanessaはself-narrativeと呼びます。自分は、これまでどんな人生を歩いてきた人なのか。物事が起きたとき、それをどんな物語として受け止めているのか。

その自己物語を知るための質問のひとつとして、彼女はStevenに尋ねます。

「自分を運がいいと感じますか?」

Stevenは、間を置かず「とても運がいいと感じる」と答えます。Vanessa自身も、「自分もとても運がいいと感じる」と話します。

Vanessaは、この答え方とself-narrativeの間には関係があると見ています。「運がいい」と即答する人と、「運が悪い」と答える人とでは、自分についての物語の語り方そのものが違う、と。

そこから彼女は、心理学者Richard Wisemanが行った新聞を使った実験を紹介します。

新聞に隠されていた、大きな答え

Wisemanは、まず参加者に「自分をどれくらい運がいいと感じるか」を答えてもらいます。そのうえで、ひとつの課題を出します。

新聞に載っている画像の数を数えること。

参加者は新聞をめくりながら、ひとつずつ画像を数えていきます。

ところが、その新聞には仕掛けがありました。

2ページ目に、大きな文字でこんなメッセージが書かれていたのです。

「数えるのをやめてください。この新聞には42枚の画像があります」

つまり、その文章に気づけば、最後まで画像を数える必要はありません。

Vanessaの説明によれば、自分を「運がいい」と捉えていた参加者は、ほとんどがこのメッセージに気づき、そこで数えるのをやめて新聞を返しました。一方、自分を「運が悪い」と捉えていた参加者は、そのメッセージにほとんど気づかず、最後まで数え続け、時間もかかり、数え間違いも多かったといいます。

目の前に、大きな文字で答えが置かれていたのに、見えなかった。

この実験について、Vanessaはこう話します。

“If you think of yourself as lucky, you literally see more opportunities. If you think of yourself as unlucky, you miss them.”

「自分を運がいいと思っていると、文字どおり、より多くの機会が目に入る。自分を運が悪いと思っていると、それを見落としてしまう。」

もちろん、これだけで「運とは何か」を説明できるわけではありません。Vanessaも、この話を「幸運になるための法則」として紹介しているわけではありません。彼女がこの実験を持ち出したのは、自分について持っている物語と、自分が目の前の世界をどう見ているかという話の流れのなかでした。

「私はこういう人」を、少しだけ動かしてみる

対談では、そのあとStevenが尋ねます。自分についての見方は、変えることができるのか、と。

Vanessaは、「growth mindsetを信じている」と答えます。もし今の話を聞いて「自分は運が悪いかもしれない、自分にはそういう物語があるかもしれない」と感じたとしても、その見方は変えていけると思う、と。そしてその変化は、「small moments of heroism(小さな英雄的な瞬間)」から始まる、と話します。

このとき彼女が例に挙げたのが、自分自身がずっと使ってきた言葉の変え方でした。

Vanessaはもともと、人との関わりが得意だったわけではありません。対談の前半で、Stevenに請われて自分の過去を振り返る場面があります。彼女は当時のことを、こう語っています。

人と関わることに、いつも圧倒されていた。自分の手をどうしていいか分からなかった。何を話せばいいのか分からなかった。まるで、会話について自分だけが聞き逃した説明があるみたいだった。いつも何か間違ったことを言っている気がして、気まずい沈黙ばかりだった。それを埋め合わせようとして、突拍子もない話をしすぎたり、しゃべりすぎたりしたかと思えば、今度は完全に黙り込んでしまう。そのどちらかの間を、行ったり来たりしていた。

特に大学時代は、自分だけが取り残されているように感じていたといいます。孤独で、それは全部自分のせいだと思っていた、と。

転機になったのは、大学のグループ課題でした。5人で分担して、それぞれ5ページずつ書くという課題です。Vanessaは教授のもとへ行き、「自分は倍の量を書くので、一人でやらせてほしい」と頼みます。教授は、「Vanessa、この課題の目的はレポートそのものじゃない。人と一緒に取り組むことなんだ」と答えました。Vanessaはそのまま、教授の研究室で泣き出してしまったといいます。「どうやったらいいのか、分からないんです」と。

その教授は、こう続けました。「Vanessa、君は科学が得意だろう。物事を分解して考えるのが得意だ。だったら、人についても、化学を勉強するみたいに研究してみたらどうだろう」。Vanessaはこれを、自分にとっての大きな転機だったと振り返っています。会話を、科学として研究してみる。うまくいっている人たちが何をしているのかを観察してみる。そうやって、人づきあいという柔らかいスキルを、練習できる技術として捉え直したことが、後の「Science of People」というブランド名にもつながっていきました。

Vanessaは、この変化が一日で起きたわけではないとも話しています。会話のための小さな型を作り、それを実際に試す。そういう小さな実験を重ねる中で、少しずつ自分らしく感じられるようになり、友人も増えていった、と。

そんなVanessaは、今も自分を単に「不器用な人」とは呼びません。

recovering awkward person。

不器用さから、少しずつ変わっている途中の人。

「私は人が好きではない」と決めるのではなく、「人を好きになる方法を見つけようとしている」。「私は不器用な人間だ」と決めるのではなく、「私は不器用さから回復している途中だ」。

Vanessaは、そうした小さな言い換えと小さな実験の積み重ねを、small moments of heroismという言葉で表現しています。いきなり別の人になるのではなく、自分についての物語に、小さな別の可能性を少しずつ加えていく。その積み重ねによって、self-narrativeもまた、少しずつ変わっていくかもしれない、と彼女は考えています。

ここからは、SelfLabの視点です

まだ途中にいる自分

「私はこういう人だから」という言葉は、自分を理解する助けにも、自分を動けなくする説明にもなります。

Vanessaの「recovering awkward person」という言い方が示すのは、今の自分を否定せず、固定もしない見方です。

昨日までの自分についての物語に、今日、小さな一文が加わる。その余白を残しておくことを、SelfLabは大切にしています。

今日の問い

あなたは、自分についてどんな物語を持っていますか。

「私はこういう人」と、ずっと言ってきたことはあるでしょうか。

もし、その言葉の最後に、

「今のところは」

と少しだけ付け加えてみたら。

その先には、どんな余白が残るでしょう。

出典・原典

この記事で紹介した「運」の話は、長い対談の一部分です。

Vanessa Van EdwardsとSteven Bartlettの会話では、人との関わり方、コミュニケーション、自信、そして自分自身について持っている物語など、さまざまなテーマが語られています。

新聞の実験や「recovering awkward person」という言葉が少しでも気になったなら、この記事だけで結論を出さず、ぜひ二人の会話そのものを聞いてみてください。

番組:The Diary Of A CEO with Steven Bartlett
出演:Vanessa Van Edwards
聞き手:Steven Bartlett
エピソード:「The Body Language Expert: Stop Using This, It’s Making People Dislike You, So Are These Subtle Mistakes! Your Resting Face Matters & How To Fix It!」
配信日:2024年12月9日
原典:YouTube「Why people don’t like you… | Body Language Expert Vanessa Van Edwards」
URL:https://www.youtube.com/watch?v=VHUrdELKjDw