「こう見られたい自分」は、本当の自分だろうか|Simon Sinekが語る、鎧を脱ぐこと

自分らしさを守る

賢く見られたい。

仕事ができる人だと思われたい。

人の話をきちんと聞ける人でいたい。

誰かからどう見られるかを意識することは、特別なことではありません。

けれど、そうやって少しずつつくってきた「自分らしい自分」は、本当に自分自身を映しているのでしょうか。

今回紹介するSimon Sinekの話には、少し意外な告白がいくつも出てきます。

自分では聞き上手だと思っていた。でも、そうではなかった。

何冊もの本を書いている。でも、本はほとんど読めない。

人を助けることについて語ってきた。でも、信頼をつくるうえで大切なのは、自分から助けを求めることでもあるという。

どれも、強い自分を見せるための話ではありません。

むしろ、自分について信じていたものを、一枚ずつ脱いでいくような話です。

これは何か

今回紹介するのは、Steven Bartlettがホストを務める『The Diary Of A CEO』に、Simon Sinekが出演した回です。

Sinekは『Start With Why』『Leaders Eat Last』などの著書で知られ、リーダーシップや組織、人と人との信頼について発信してきました。

そんな彼がこの対話で語るのは、成功した著者や専門家としての完成された姿だけではありません。

人の話を聞けていなかった自分。

助けを求める自分。

本を読むことが苦手な自分。

そして、気まずい会話から逃げずに誰かと関係をつくること。

一見すると別々の話ですが、聞いていくと、その奥に同じ問いが見えてきます。

私たちは、自分の不完全さをどこまで誰かに見せられるのだろう。

「あなたは、聞き上手じゃない」

Sinekは、自分のことを聞き上手だと思っていました。

ところが、パートナーから返ってきたのは「あなたは聞き上手ではない」という指摘でした。

本人は心外に感じたといいます。

そこで彼は、それを否定して終わらせるのではなく、実際にリスニングのクラスを受講します。

そこで気づいたのは、少し奇妙なことでした。

クラスで初対面の人と向き合えば、相手の話をきちんと聞くことができる。学んだリスニングのスキルも使える。

それなのに、家族や友人といった身近な人との関係では、それができていなかった。

「聞き方」を知らなかったわけではありません。

自分は聞き上手だと思っていた。

実際に聞く能力も持っていた。

でも、身近な人との日常ではそうできていなかった。

自分が思っている自分と、実際の自分は、必ずしも同じではない。

Sinek自身も、そのずれを人から指摘されることで知ることになります。

助ける側にいるだけでは、生まれないもの

対話のなかでSinekは、「助けを求めること」についても話しています。

彼の考え方は、少し意外です。

“Never asking for help is selfish. Asking for help is a great act of service cuz you allow someone else to have the joy of sacrifice.”

「決して助けを求めないことは、利己的でもある。助けを求めることは、ある意味で相手への奉仕でもある。誰かのために力を差し出す喜びを、相手に渡すことになるから。」

人に頼らない。

迷惑をかけない。

自分のことは自分で解決する。

そうできる人は、強く、自立しているようにも見えます。

けれどSinekは、それを「助ける側」からだけ見ません。

自分が誰かの役に立てたとき、そこには喜びがある。

だとすれば、自分が助けを求めることは、相手にその喜びを経験する機会を渡すことでもある。

だから彼は、信頼はただ「誰かを助けること」だけから生まれるのではなく、自分から助けを求められることとも関係していると考えます。

いつも知っている側。

いつもできる側。

いつも助ける側。

そこに居続けるのではなく、ときには「自分にはできない」と相手に委ねる。

そのとき初めて生まれる関係もあるのかもしれません。

本を書いている。でも、本はほとんど読まない

もうひとつ印象的なのが、Sinek自身の学び方についての告白です。

彼は、自身にADHDがあり、本をほとんど読まないと話します。

『Start With Why』をはじめ何冊もの本を書いてきた人物です。

その本人が、

“I have pretty bad ADHD… I’ve written more books than I’ve read… I don’t read. I learn by listening and talking.”

と話しています。

本を書く人。

知的な仕事をする人。

多くの知識を持つ人。

そんな人物を想像すると、「たくさんの本を読んできた人」という姿を思い浮かべる人もいるかもしれません。

Sinekは、そのイメージに自分を合わせようとはしません。

読むことが苦手なら、自分はどうやって理解するのか。

彼が見つけたのは、聞くことと、話すことでした。

複雑なことを理解したいとき、人に質問する。

分からなければ、また質問する。

さらに聞く。

そうやって対話を繰り返しながら、自分が理解できるところまで物事を単純にしていく。

「本を読める人になる」という方向ではなく、自分はどうすれば学べる人なのかを知っていく。

Sinekの話から見えてくるのは、そんな姿です。

気まずさの向こうにいる相手

Sinekは、人との関係について、もうひとつ問いを投げかけています。

学校ではさまざまなことを教わるのに、気まずい会話をする方法はほとんど教わらない。

彼は三角関数を例に挙げながら、人生においては、気まずい会話をする力の方が役立つ場面が多いのではないか、という趣旨の話をします。

誰かに傷つけられた。

意見が違う。

言いたいことがあるけれど、言えば関係が悪くなるかもしれない。

そういう場面は、たしかに気まずいものです。

そして今は、その気まずさを通過しなくても、関係そのものから離れることができます。

SNSなら、ブロックすることもできる。

もちろん、すべての関係を維持する必要があるわけではありません。

それでも、気まずい会話のなかには、相手に見せたくなかった自分が顔を出すことがあります。

分かっていない自分。

傷ついた自分。

助けてほしい自分。

間違っていた自分。

Sinekがこの対話で語るいくつものエピソードには、そんな隠しておきたくなる自分を抱えたまま、誰かと関わることが繰り返し現れます。

完璧になってから、人とつながるのではない。

不完全なところを残したまま、人と関係をつくっていく。

そんな人間関係の姿が、この対話のあちこちから見えてきます。

ここからは、SelfLabの視点です

鎧を脱ぐということ

「こう見られたい」が重なると、それはいつの間にか「こうあるべき」に変わることがあります。

Sinekは、本を読めない自分を「読む人」に作り変えるのではなく、聞いて、話して、質問するという自分の学び方を見つけました。

自分についてつくっていたイメージをいったん脇に置き、そこにいる自分から、もう一度選び直していくこと。

鎧を脱ぐとは、弱くなることではなく、誰かに認めてもらうためにつくった自分から、自分自身へ戻っていくことなのかもしれません。

今日の問い

あなたが「こういう人でなければ」と思っている自分は、どこからやってきたのでしょう。

自分で選んだものなのか。

誰かから期待されたものなのか。

それとも、いつの間にか「そうあるべきだ」と思うようになったものなのか。

もし、誰からも評価されなくても。

あなたは、同じ自分でいようとするでしょうか。

答えを急がずに考えてみると、その奥に、少し違う自分がいるかもしれません。

出典・原典

今回紹介したのは、Simon SinekとSteven Bartlettの長い対話の一部です。

リスニングについての失敗も、本を読めないという話も、助けを求めることについての考え方も、文章だけで切り取ると、それぞれ独立した「教訓」のように見えてしまいます。

けれど、実際の対話では、Sinek自身が笑ったり、迷ったり、自分の経験を振り返ったりしながら話していきます。

その空気ごと触れてみると、ここで紹介した言葉も、少し違って聞こえるかもしれません。

番組:The Diary Of A CEO with Steven Bartlett
出演:Simon Sinek
聞き手:Steven Bartlett
原題:Simon Sinek: The Number One Reason Why You’re Not Succeeding | E145
配信日:2022年5月23日
原典:YouTube「The Diary Of A CEO」
URL:https://youtu.be/Q-zuTZuYeCg