「なぜ?」をやめた日|Adam Alterが語る好奇心と探索

母親を見上げて問いかける子供と、その話を聞く母親 思考を整える

子供と話していると、「なぜ?」と何度も聞かれることがあります。

なぜ空は青いの?
なぜこれはこうするの?
なぜそう決まっているの?

ひとつ答えても、その答えにまた「なぜ?」が返ってくる。

大人からすると、少し困ってしまうこともあります。

でも考えてみると、私たちにもそんな時期があったはずです。

では、いつから私たちは「なぜ?」と聞かなくなったのでしょうか。

今回紹介するのは、社会心理学者Adam Alter(アダム・オルター)が「The Diary Of A CEO」で語った、好奇心と探索についての話です。

人は、なぜ「みんながしていること」を疑わなくなるのか

Adam Alterは、NYU Stern School of Businessの教授で、マーケティングや社会心理学を研究しています。

『Drunk Tank Pink』『Irresistible』『Anatomy of a Breakthrough: How to Get Unstuck and Unlock Your Potential』などの著書でも知られています。

Steven Bartlettとの対談では、人が行き詰まる理由や、そこから抜け出す方法、好奇心、キャリア、環境が人の行動に与える影響など、さまざまなテーマが語られます。

そのなかでAlterが話すのが、自分の子供たちのことです。

5歳と7歳の子供たちは、とにかく「なぜ?」と聞く。

“nothing is okay until we’ve explored it to the ends of the Earth”

「地球の果てまで探り尽くすまでは、何ひとつそのままでは済まない」

少し大げさで、子供らしさの伝わる表現です。

目の前にあるものを、そのまま受け入れない。

どうして?
なぜそうなの?
ほかのやり方はないの?

ところが大人になるにつれて、私たちは少しずつそうした問いを口にしなくなっていきます。

Alterが指摘するのは、大人になると「みんながそうしているから」という理由を、そのまま受け入れるようになることです。

もちろん、それには理由があります。

世の中には、毎回ゼロから考えていたら生活できないほど、たくさんの決まりや慣習があります。

けれど、ときには「普通はこうする」という前提そのものを疑ったことで、まったく違う方法を見つける人もいます。

Alterは、その一人として、元オリンピック水泳選手David Burkhoffの話を紹介します。

「普通の泳ぎ方」が、自分には合わなかった

Burkhoffは、1988年のソウルオリンピック、1992年のバルセロナオリンピックに出場した背泳ぎの選手です。

当時のトップクラスの背泳ぎ選手には長身の選手が多いなか、彼はそうした典型的な体格とは異なっていました。

普通に競えば、不利になる。

そこでHarvard大学のコーチが勧めたのが、みんなと同じ方法をそのまま続けるのではなく、自分なりの方法を試してみることでした。

Burkhoffは実験を始めます。

注目したのは、スタート直後の水中です。

通常の泳ぎ方をそのまま繰り返すのではなく、水中で長く息を止め、潜った状態で進むことを徹底的に練習していきました。

そして、スタート後およそ40メートルを水中で進む、独自の技術をつくり上げます。

のちに「Burkhoff Blast-off」と呼ばれるようになった技術です。

その方法によって、Burkhoffは世界記録を樹立し、オリンピックでも金メダルと銅メダルを獲得しました。

この話を「常識を破れば成功できる」という教訓にしてしまうのは簡単です。

でも、Alterが紹介する話として興味深いのは、結果だけではありません。

最初から正解を知っていたわけではないことです。

「自分には、別のやり方があるのではないか」と考えて、試す。

その結果を見て、また試す。

完成された答えを見つけたというより、問いを持ったことから探索が始まっています。

好奇心は、生まれつきのものなのか

ここでSteven Bartlettが、面白い問いをAlterに投げかけます。

好奇心は、教えることができるのか。

子供の頃から好奇心の強い人もいれば、そうではない人もいます。

もし好奇心に生まれつきの差があるのなら、大人になってから変えることは難しいのでしょうか。

Alterの答えは、「誰でも同じように好奇心旺盛になれる」という単純なものではありません。

生まれつきの個人差はある、と彼は認めています。

そのうえで、好奇心を10点満点で考えたとき、もともと3点くらいの人を、教育によって6点や7点くらいまで伸ばすことは可能だと考えている、と説明します。

ただし、その人が9点や10点になるとは限らない。

この留保があるところも、Alterの話の興味深いところです。

「人は何にでもなれる」という話ではありません。

もともとの違いはありながらも、今いる場所から動く余地はある。

好奇心を、生まれつき「ある・ない」で分けるのではなく、ある程度育てることのできるものとして見ています。

では、大人になってからでは遅いのか

好奇心や探索という言葉には、どこか「若さ」のイメージがあります。

まだ何者でもないから、いろいろ試せる。

失うものが少ないから、違う道へ進める。

Alterが紹介する研究には、そのイメージを少し違う角度から見るものがあります。

起業家というと、若くして会社を立ち上げた人物が注目されがちです。

Alterも、「22歳くらいの若者が起業する」というイメージが強いことに触れています。

ところが彼が紹介する研究では、成功する可能性が高い起業家の年齢は、40代半ばから50代だといいます。

Alterがその理由として挙げるのが、それまでに経験してきた失敗と、そこから得た学び、そして人生経験の厚みです。

長く生きていれば、うまくいったことだけが増えるわけではありません。

選んで失敗したこと。
思ったようにならなかったこと。
自分には合わないとわかったこと。

そうした経験も増えていきます。

普通に考えれば、それらは新しいことを始めるときの「重荷」にも見えます。

けれどAlterが紹介する研究からは、別の見方もできます。

過去の失敗や経験は、次に何を試すのかを考える材料にもなり得る。

経験を積むことと、探索することは、必ずしも反対側にあるものではないようです。

最初から一つに決めなくてもいい

さらにAlterは、キャリアのなかで大きな成果が集中して生まれる「hot streak」についての研究を紹介します。

興味深いのは、大きな成果を生み出した人たちが、最初からひとつのことだけを深く掘り続けていたわけではないことです。

そこには、あるパターンが見られました。

探索(exploration)してから、深掘り(exploitation)する。

まず、いろいろなことを試す。

違う方法に触れる。
違う方向へ進んでみる。
何が自分に合うのかを探る。

そして、そのなかから何かを見つけたとき、一つの方向へ集中していく。

Alterはその例として、画家Jackson Pollockや映画監督Peter Jacksonにも触れています。

重要なのは、探索だけを永遠に続けることでも、一つのことだけを最初から深掘りすることでもありません。

広く試す時期と、絞り込む時期。

その二つが順番に現れることが、hot streakと関係していたという研究です。

そう考えると、一見すると何も定まっていないように見える時期にも、少し違った意味が見えてきます。

試している途中。
迷っている途中。
まだ一つに決められていない途中。

それは必ずしも、前に進んでいない時間とは限らないのかもしれません。

ここからは、SelfLabの視点です

いつから、問いを持たなくなったのだろう

私たちは大人になるまでに、たくさんのことを学びます。

その一方で、「普通はこうする」「この年齢ならこうする」「みんながそうしている」という答えも、知らないうちにたくさん受け取っています。

それらが間違っているわけではありません。

でも、ときどき「なぜ?」と問い直してみる余地は残っているのかもしれません。

過去の経験も、年齢も、これまで選んできたことも消す必要はない。

それらを持ったまま、もう一度何かを探索することもできる。

Alterの話を聞いていると、そんな見方もできるように思います。

今日の問い

最近、あなたは何に「なぜ?」と思ったでしょうか。

仕事のやり方かもしれません。
毎日の習慣かもしれません。
誰かから言われたことかもしれません。

あるいは、「この年齢ならこうするものだ」と、自分で決めていることかもしれません。

すぐに何かを変える必要はありません。

答えを見つける必要もありません。

ただ、「なぜ、そうしているんだろう」と考えてみる。

子供の頃には当たり前にしていたその問いを、久しぶりにひとつだけ持ってみてもいいのかもしれません。

出典・原典

今回紹介したのは、Adam AlterとSteven Bartlettの対談の一部です。

実際の対談では、Alterが研究や具体的なエピソードを次々に紹介しながら、人が行き詰まる理由や、そこから抜け出す方法について話していきます。

Burkhoffの話も、好奇心の話も、40代・50代の起業家についての研究も、それぞれ単独で語られる以上に、前後の会話を聞くことでAlterの考え方が見えてきます。

「この人の話をもう少し聞いてみたい」と感じた方は、ぜひ本編を見てみてください。

番組:The Diary Of A CEO with Steven Bartlett
出演:Adam Alter
聞き手:Steven Bartlett
配信日:2023年7月3日
原典:YouTube「The Diary Of A CEO」
URL:https://www.youtube.com/watch?v=cI2rMEd6GW4